大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和58年(行ウ)15号 判決

原告

西秦野保育園こと

込山スミ子

右訴訟代理人弁護士

三川昭徳

被告

神奈川県地方労働委員会

右代表者会長

秋田成就

右訴訟代理人弁護士

榎本勝則

補助参加人

宮崎純子

右訴訟代理人弁護士

岡村共栄

岡村三穂

陶山和嘉子

中込泰子

小口千恵子

児鵬初子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が補助参加人を申立人、原告を被申立人とする神労委昭和五六年(不)第一五号不当労働行為救済申立事件につき、昭和五八年四月二五日付でなした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の申立(被告及び補助参加人)

1  原告の訴を却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する答弁(被告及び補助参加人)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  本案前の申立の理由

1  原告は昭和六一年二月二八日付で児童福祉施設保育所西秦野保育園の廃止を申請し、同年三月三一日神奈川県知事の承認を得て、同日閉園され、補助参加人(以下「参加人」と略称する。)は同日付で西秦野保育園を退職した。

2  原告は、参加人を申立人、原告を被申立人とする神労委昭和五六年(不)第一五号不当労働行為救済申立事件について昭和五八年四月二五日付で被告が発した命令(以下「本件命令」という。)を違法として取消を請求しているが、前記のとおり、参加人の原職は西秦野保育園の閉園で消滅したので参加人の原職復帰は客観的に不可能であり、原告としては本件命令に服しようがないから、本件命令は拘束力を失なつた。したがつて、原告は本件命令の取消を求める利益はない。

3  原告の主張に対する参加人の反論

原告が昭和五六年二月一八日参加人に対してなした解雇(以下「本件解雇」という。)の有効、無効が確定されない限り、参加人が本件命令により受領した賃金相当額(四〇九万三一二一円)が不当利得になるか否かは決しえないところ、本件本案判決によつても本件解雇の効力は確定しないので、仮に本件命令が取り消されたとしても、参加人が受領した賃金相当額は不当利得となるわけではないから、本件訴訟の本案判決を受ける利益はない。

二  本案前の申立の理由に対する認否・反論

1  本案前の申立の理由1の事実は認める。

2  同2のうち本件命令のうち参加人の原職復帰を前提とする部分については西秦野保育園が閉園となれば救済命令の内容が実現不可能となることは認めるが、その余の主張は争う。

3  原告は本件命令及び緊急命令によつて既に賃金相当額四〇九万三一二一円を支払つている。

本件訴訟において本件命令が取り消され、その結果緊急命令が取り消されれば原告が参加人に支払つた賃金相当額は法的根拠がなくなり、不当利得となり、原告は参加人に対しその返還を請求することができるに至る。

したがつて、原告は本件訴訟において本件命令の取消を求める利益がある。

三  請求の原因

1  参加人は、原告を相手方として被告に対し、不当労働行為救済の申立をしたところ、被告は右申立にかかる神労委昭和五六年(不)第一五号事件について、昭和五八年四月二五日付で別紙(一)のとおりの本件命令を発し、右命令書は同月二七日原告に送達された。

2  本件命令には以下に述べるとおり事実を誤認し、判断を誤つた違法があるので取り消さるべきである。

(一) 本件命令は原告保育園就業規則(以下「本件就業規則」という。)二三条一項三号の規定の解釈を誤つている。

本件命令は右規定が義務教育諸学校等の女子教育職員及び医療施設、社会福祉施設等の看護婦、保母等の育児休業に関する法律(以下「育児休業法」という。)一七条の規定に基づき定められたものであり、育児休業の許可に当たつて国及び地方公共団体の運営する社会福祉施設等の保母と別異に解すべき理由はないとして、原告は「育児休業の許可を定めた(育児休業法)第三条二項に準じて育児休業の申請があつたときは、臨時的任用が著しく困難であつた場合を除き、育児休業を許可するよう努めなければならない」と解釈している。

しかし、右規定は臨時の代替職員採用の可否、原告の運営上の事情、育児休業を申し出る者の事情・態度等を総合的に考慮して自由裁量により育児休業の申し出に対し許可を与えるか否かを決することができると解すべきである。

(二) 本件命令は原告(被申立人)が主張するような臨時の代替職員を確保するに困難な事情があつたと認められない旨認定しているが、右認定が事実誤認であることは以下の事実から明らかである。

(1) 参加人は当初産前産後の休暇をとる時、育児休業をとる意思がなかつたのに、昭和五五年八月二〇日になつて突然産前産後の休暇明けの同年九月八日から同年一〇月二五日までの期間育児休業をとりたい旨手紙で原告に対し申し出てきた。

原告は、かつて原告の所で保母として働いていたことがあり、個人的にも知つている訴外瀬戸サキ(以下「瀬戸」という。)を臨時の代替職員として確保することができたので、同年九月二二日付で参加人の申し出を許可した。

(2) ところが参加人は同年九月八日原告の留守中に保育園を訪れ、主任保母訴外矢田初子(以下「矢田」という。)に対し、昭和五六年三月二五日まで育児休業を認めるよう原告に伝えてほしい旨言い置いて帰り、更に昭和五五年一〇月八日内容証明郵便により育児休業期間を昭和五六年七月一四日まで延長するよう申し出た。

右のとおり、参加人の育児休業の申し出はあまりにも唐突かつ無計画であるといわざるを得ない。

(3) 参加人の同年八月二〇日付の育児休業の申し出に対しては前記のとおり原告は許可したけれども、偶々個人的に知つていた瀬戸を臨時の代替職員として確保し得たからである。しかし、瀬戸は同年一一月から他の保育園で勤務することが既に決まつていたので、同人が原告保育園で勤務できるのは同年一〇月末までであつた。

参加人がした育児休業延長の申請はあまりにも唐突かつ計画性のないものであるから、かかる申請の態様自体からして許可しがたいものであるばかりか、原告は臨時の代替職員確保のため松田の職業安定所、秦野市、秦野市福祉協議会、県作成の臨時職員名簿に基づいて秦野市在住の名簿登録者及び訴外宮城宏(以下「宮城」という。現在日本社会福祉労働組合神奈川県支部書記長)らから教えられた諸団体に連絡をとつたが、臨時の代替職員を確保することができなかつたのであるから、育児休業の延長を許可することは困難であつたことは明らかである。

(三) 本件命令は財政的にも参加人に代る新規職員を採用することは可能である旨認定しているが、右認定は事実誤認であることは以下の事実からも明らかである。

(1) 原告保育園の昭和五五年度予算書によると職員俸給及び諸手当は全支出の七二パーセントに及んでおり、法定福利費、厚生経費、旅費、賃金等の人件費関係の費用を加算すると全支出の七九パーセントに達している状態であるから、原告保育園の職員数としては一六名が適正である。

(2) 昭和五五年九月に柏木美佐子(以下「柏木」という。)が退職したので臨時採用していた小島利枝子(以下「小島」という。)を正規の職員として採用し、参加人及び昭和五六年五月二五日退職予定の矢田の補充として同年四月二名の保母を採用したもので、職員数の増減はない。

(3) 昭和五五年度の措置費収入が前年度に比べ増加し、職員俸給が減少し、職員手当が増加しているが、右は参加人が育児休業中であり、込山将が病気により休職中であつたため、右二名に対し給料を支給する必要がなかつたために生じた一時的現象であるから、右の財政状態を前提に職員を採用すれば適正職員数を越え、原告の経営の悪化を招きかねない。

(四) 本件命令は専ら職員の採用(臨時の代替職員の採用を含め)が可能であつたか否かのみに固執し、参加人が育児休業を申請するに当たつて原告に対し無理な申請をしてきた事実を何ら考慮していないので、判断の遺漏がある。

(五) 本件就業規則二七条一項一号「勤務成績又は能率が著しく劣り業務に適しない」旨の規定は参加人の過去の勤務態度を総合して判断すべきであるのに、本件命令は原告主張の事実を分断して各事実が独立の解雇事由に該当するか否かを判断し、各事実が解雇事由に該当しないとして、本件就業規則二七条一項一号に該当する事実はない旨認定するのは事実誤認であるばかりではなく、育児休業の申し出の際の参加人の態度について判断の遺漏がある。

(六) そして、本件命令は本件解雇には理由がなく、不当労働行為であるとの認定をしたが、右認定は事実誤認である。

四  請求の原因に対する認否(被告及び参加人)

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2前文は争う。

(一) 同2(一)のうち本件命令において本件就業規則二三条一項三号の規定を原告主張のとおりに解釈したことは認めるが、その余の原告の主張は争う。

(二) 同2(二)前文のうち本件命令において原告主張の認定をしたことは認めるが、その余の主張は争う。

同2(二)(1)のうち参加人が昭和五五年八月二〇日原告主張の如き手紙で育児休業をとりたい旨申し出たこと、瀬戸が臨時の代替職員として採用されたこと、同年九月二二日付で育児休業が許可されたことは認め、その余の点は否認する。

同2(二)(2)のうち、参加人の育児休業の申し出が唐突かつ無計画であることは否認し、その余の事実は認める。

同2(二)(3)の事実は不知。

(三) 同2(三)前文の事実のうち本件命令において財政的にも参加人に代わる新規職員を採用することは可能であつた旨認定したことは認め、その余の主張は争う。

同2(三)(1)のうち、原告の昭和五五年度予算書の職員俸給及び職員諸手当の金額が原告主張のとおりであることを認め、その余の点は不知。

同2(三)(2)の事実は不知。

同2(三)(3)のうち措置費、俸給、職員手当の増減に関する原告の主張は認め、その余の点は不知。

(四) 同2(四)の事実は否認する。

(五) 同2(五)の事実は否認する。

(六) 同2(六)の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

(本案前の申立について)

一本件命令のうち参加人の原職復帰を前提とする部分については西秦野保育園が廃園となれば救済の内容の実現は不可能であり原告としては本件命令に服しようがないから本件命令は拘束力を失ない、本件命令の取消を求める利益はないものというべきである。

しかしながら、参加人は本件命令にかかる緊急命令により賃金相当額を受領していることは当事者間に争いがないところ、本件訴訟において本件命令が取り消され、その結果緊急命令が取り消されれば、原告が参加人に支払つた賃金相当額は法的根拠がなくなり、不当利得となり、原告は参加人に対しその返還を請求することができることになるので、右の限度において原告には本件命令の取消を求める利益がある。

右の点において本件命令の取消を求める利益がある以上、本件命令はその救済方法(主文第一ないし第三項)の数に関係なく一個の行政処分と解するを相当とするので、本件命令全体につきその取消を求める利益があるものというべきである。

したがつて、被告及び参加人の本案前の申立は理由がない。

(本案について)

二請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

三本件命令は本件就業規則二三条一項三号の規定について育児休業の許可に当たり育児休業法三条二項に準じて育児休業の申請があつたときは臨時的任用が著しく困難な事情がある場合を除き、育児休業を許可するよう努めなければならない趣旨であると解していることは当事者間に争いがない。

ところで、国及び地方公共団体の運営する社会福祉施設(以下「国公立の社会福祉施設」という。)の保母で、その一歳に満たない子を養育するものは、当該子の養育のため、任命権者に対し、育児休業の許可を申請することができ(育児休業法三条一項)、任命権者は、右申請があつたときは、同法一五条一項に規定する臨時的任用が著しく困難な事情がある場合を除き、育児休業の許可をしなければならない(同法三条二項)。すなわち、国公立の社会福祉施設で働く保母の申請する育児休業については法は任命権者に対し原則的許可を義務付けているのである。

一方、国公立の社会福祉施設以外の社会福祉施設(以下「私立の社会福祉施設」という。)に働く保母については、右施設の運営者は育児休業法に規定する育児休業の制度に準じて、保母の育児休業に関し「必要な措置を講ずるよう努めなければならない」とされている(同法一七条)。すなわち、私立の社会福祉施設については、国公立の社会福祉施設とは異なり、育児休業の原則的許可を義務付けているわけではなく、育児休業に必要な措置を講ずる努力を義務付けているにすぎないのである。しかしながら、その努力目標は育児休業法に規定する育児休業制度に準じた措置でなければならないから、臨時的雇用が著しく困難な事情がある場合を除いて育児休業の申請を許可する措置が努力目標でなければならないと解するを相当とする。

〈証拠〉によれば本件就業規則(昭和五四年一〇月一日施行)二三条一項三号は「育児休業に関する法律に基づく申請があつた場合」に休職を命ずることがある旨規定しているが、右規定は育児休業法一七条にいう育児休業に必要な措置を講ずる努力義務に副つて制定されたものと認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

したがつて、本件就業規則二三条一項の「休職を命ずることがある」旨の規定も育児休業法の趣旨に則り解釈すべきであり、そうであれば、右条項は育児休業法の規定する育児休業制度に準じた制度を採用したものと認めるべきで、単に原告の自由裁量によつて育児休業の許否が決せられるものとは解することは困難であるといわざるを得ない。

したがつて、右就業規則二三条に基づく育児休業の許否は原告の自由裁量によるとする原告の主張は採用し難く、本件命令が右規定の趣旨を「同法(育児休業法)第三条二項に準じて育児休業の申請があつたときは、臨時的任用が著しく困難な事情がある場合を除き、育児休業を許可するよう努めなければならない」と解したことは正当であつて、何ら違法はない。

なお、原告の運営上の事情、育児休業を申し出る者の事情、態度等も育児休業の許否に当たつて考慮することができると解すべきであることは原告主張のとおりであるが、これらの事情は臨時的雇用が著しく困難であつたか否かを判断するに際し考慮されるべき事情であると解することができるから、原告主張の事情を考慮することと本件命令の立場と矛盾するものではない。

四次に、参加人がした育児休業の延長申請の際臨時的雇用が著しく困難であつたか否かについて検討する。

本件命令は要旨次のとおり認定・説示している。

1  参加人は昭和五五年八月二〇日には原告に対し、育児休業の延長もあり得ることを告げ、同年九月八日には現に延長の希望を表明しているのであるから、

(一)  原告は同年九月二六日瀬戸が就業する前に、参加人の代替期間について交渉できたはずであること、

(二)  同年一〇月二五日までの間に臨時の職員を探す時間的余裕もあつたのに積極的に探した様子も認められないこと、

2  その後も、正式に職業安定所に求人を申し込んでいないこと、

3  同年九月に保母一名が退職し、新規採用が可能であつたのに増員をせず、翌年四月の新年度に二名の保母を採用していること、

などを勘案すると臨時の代替職員を確保するのに困難な事情があつたとは認められない旨説示している。

右1(一)の趣旨は必ずしも明らかでないが、瀬戸が就業する以前に、同人に昭和五五年一〇月二五日以降も原告保育園で就業するように交渉できたはずであるとの趣旨であるとしても、〈証拠〉によれば瀬戸は同年一一月以降他の保育園に就職することが、当初から決定していたことが認められるので、仮に原告が瀬戸と交渉したとしても、昭和五五年一〇月二五日以降原告保育園で勤務したとは認められないので、右1(一)の事実から、臨時の代替職員を確保するに困難な事情があつたか否かを判断することは適切ではないものというべきである。

また、正規職員の補充の要否、可否と育児休業のための臨時職員の雇用の可否とは別個の問題であるから前記3の事実から臨時の代替職員を確保するに困難な事情があつたか否かを判断することも適切でないものというべきである。

次に前記1(二)及び2の点について検討するに、〈証拠〉並びに当事者間に争いのない事実によれば、参加人は昭和五五年八月二〇日原告に対し書面で育児休業を申請するに際し、育児休業の延長もあり得る旨申し出ており、同年九月八日には矢田主任保母に対し育児休業を翌年三月まで延長したい旨表明していたこと、参加人に対する育児休業は同五五年九月二二日付で同年一〇月二五日まで許可されたので、育児休業の延長が問題となるのは同年一〇月二六日以降のことであつて、その間臨時の代替職員を探す時間的余裕があつたといえること、しかるに原告は当初から育児休業の期間延長には否定的で、参加人から申請のあつた期間延長に対応するため、同年一〇月二五日までの間、臨時の代替職員を確保する努力をした様子がないこと、その後原告が臨時の代替職員を確保するため、努力したことは後記のとおりであるが、職業安定所に対し正式に臨時職員の紹介を依頼することを、保険等の負担など人件費に問題があることを理由に中止したことが認められ、前記1(二)及び2の被告の認定はこれを是認することができる。

しかし、〈証拠〉によれば原告は昭和五五年一〇月以降職業安定所に問い会わせたり、あるいは秦野市、秦野市福祉協議会に問い会わせ、あるいは神奈川県作成の臨時職員名簿に基づいて臨時の代替職員を探したこと、また日本社会福祉労働組合神奈川県支部書記長の職にあつた宮城から教えられた諸団体に連絡をとり代替職員を探したが、いずれも、これを確保できなかつたことが認められ、右の事情を考慮すれば、臨時の代替職員の確保は決して容易なものではなかつたと認めざるを得ない。

しかしながら、育児休業を不許可とするには臨時の代替職員の確保が著しく困難な事情がある場合でなければならないと解すべきである(育児休業法三条二項参照)ところ、前認定のとおり、原告は当初から参加人の育児休業に対し否定的態度をとり、職業安定所に対し正式に紹介を依頼することを中止するなど、臨時の代替職員の確保に積極的でなかつたと認められるうえ、〈証拠〉によれば、原告は昭和五五年四月二日小島を参加人の産休代替職員として臨時採用したが、同年一〇月一日退職した保母柏木の後任として正規職員として採用したことが認められる。臨時職員を正規職員に採用することは、経営者としても温情のある処置であり、かつ、採用される者にとつても利益であるけれども、産休代替の職員を臨時職員から正規職員に登用しておきながら、その補充としての臨時職員の採用が困難であることを理由に育児休業の延長を許可しないのは、参加人に対し酷であるといわなければならない。

また、原告は参加人の育児休業の申請は唐突かつ無計画であり、かような申請は許可さるべきでない旨主張するけれども、〈証拠〉並びに当事者間に争いのない事実によれば、参加人は昭和五五年四月末ないし五月初め、矢田主任保母に対し一〇月二五日まで育児休業をとりたい旨話していたこと、同年八月二〇日ころ原告に対し書面で育児休業を申請するとともにその期間は延長する可能性がある旨申し出たこと、同年九月二二日原告に対し翌年三月二五日までの延長を申し出て拒否されたこと、同五五年一〇月八日原告に対し書面で翌年七月一四日までの延長を申請したことが認められる。

右のように育児休業の期間について申し出に変遷があるけれども、その理由は、前掲証拠によれば、参加人の二男の病状に基因したほか、原告の拒否的態度に反撥して就業規則に規定する期間を主張したためであると認められ、参加人の右申請が唐突であるとも無計画であるとも断じ難いところであつて、参加人の申請の態度の故に育児休業を不許可とすべき理由とはなし得ないものというべきである。

以上によれば本件命令は臨時の代替職員を確保するのに著しい困難があつたとは認め難いところであつて、本件命令の措辞必ずしも適切でない点もなしとはしないが、結局その結論においてこれを是認することができる。

五次に、参加人に対し「育児休業を認め、その代りの新規職員を採用することは財政上充分可能であつた」旨の本件命令の説示について検討する。

〈証拠〉によれば、原告保育園の措置費収入は昭和五四年度三四九三万八四六〇円、同五五年度三八五三万九五〇〇円で同五五年度は前年に比し約三六〇万円増加していること、職員俸給は同五四年度二二七四万二一二〇円、同五五年度二〇三九万二九四五円で、同五五年度は前年度に比し約二三五万円減少したが、職員諸手当は同五四年度一一一三万二三一〇円に対し同五五年度は一五六四万九三三九円で約四五一万円増加したから、結局職員俸給、諸手当は約二一六万円増加したことが認められる。右事実は本件命令も指摘するように保育園の収入が増えたのに少ない職員で間に合わせ、一人当たりの職員に多額の手当を与えたことを意味するものであるが、原告本人尋問の結果によれば右の状況は参加人が事実上休職状態にあり、かつ込山将も病気休職中であつて、俸給が支払われなかつたことなどから生じた一時的な現象であることが認められ、右のような一時的な現象を前提として正規職員の採用の可否を論ずることは相当でないものというべきである。

したがつて、本件命令の前記説示は適切なものとはいいがたい。

しかしながら、臨時の代替職員の確保が著しく困難でなく、参加人の申請した育児休業の延長は許可されるべきであつたことは前記のとおりであり、本件命令の前記説示が認められないとしても、右の結論に影響を与えるものではない。

六次に原告の本件就業規則二七条一項に関する主張について検討するに同条の該当事実の存否は参加人の過去の勤務態度を総合して判断すべきで、原告が解雇事由として主張した各事実を分断して独立の解雇事由に該当するか否かを判断すべきではないことは原告主張のとおりである。

本件命令は原告主張の解雇事由について順次判断し、それぞれ解雇事由とすることは相当でないと認定し、原告主張の事実を分断して判断していると解されないではないが、本件命令が結論として参加人に対する解雇理由がいずれも合理性に乏しいと認定したのは、原告の主張する解雇事由を総合判断しても就業規則二七条一項に該当すると認めることができないと認定しているものと解することができなくはなくかつ、右認定を是認することができるものである。

したがつて、原告の前記主張は理由がない。

七次に原告は本件命令が本件解雇を不当労働行為であると認定したことをもつて事実誤認と主張するが、本件解雇には理由がないことは前説示のとおりであるから、本件解雇が正当であることを前提とする事実誤認の主張は、その前提を欠き、理由がないといわざるを得ない。

八よつて原告の請求は理由がないので、これを棄却し、訴訟費用(参加によつて生じた分を含む)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邊昭 裁判官青山邦夫 裁判官小池喜彦は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官渡邊昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例